2025年3月31日月曜日

 


                        アゾラ ( Azolla )

 池を縦横無尽に泳ぐカモたちは、いまや時代の先端を行く存在になっている。なぜなら、水面を覆う「アゾラ」という緑色の水草を丸飲みにしているからだ。

 ネパール語ですが 動画 を見てください 動画を見るだけでアゾラの有用性が理解できる筈です。

 小型のシダ類であるアゾラは、2日で2倍という猛烈な勢いで繁殖し、小さな池をたちまち征服してしまう。カモにとってはどうでもいい話だが、アゾラが人間社会に広く入り込み、人々や家畜の食料、作物の肥料、さらにはバイオ燃料になる日は近いかもしれない。

 「いますぐ池に行ってこの草を食べなさい、などと呼びかけるつもりはありません」と、ペンシルベニア州立大学でアゾラの研究に取り組むリサーチテクノロジストのダニエル・ウィンステッドは言う。「その前にするべきことがたくさんあるからです。それでもやはり、この植物に途方もない可能性が眠っていることは確かです」

 池からアゾラをすくい上げ、カモのように食らいつく人がいない最大の理由は、その味のひどさだ。一方で、過去に研究対象となったアゾラ種のほとんどが、ほかの多くの植物にも存在するポリフェノール成分を豊富に含んでいた。ポリフェノールは少量を摂取した場合に抗酸化物質として働き、有害物質を体外に排出するのを促してくれる。ただしアゾラの場合、栄養を取り込もうとする人体の働きが、その大量のポリフェノールによって阻害される恐れがある。つまり、アゾラは栄養豊富どころか“栄養阻害食材”になってしまうほどのレベルでポリフェノールを含有するのだ。

    食用を可能にする調理法

 しかし、この欠点をもたない種類が存在する。米国南東部に自生する「カロライナアゾラ」だ。ウィンステッドが調査したところ、カロライナアゾラのポリフェノール含有量はほかの種類よりはるかに低く、むしろ米国で常食される果物や野菜の含有量に近いことが判明した。また、発酵させる、ゆでる、圧力鍋で加熱する、の3通りの方法でカロライナアゾラを調理したところ、ポリフェノール含有量はそれぞれさらに62%、88%、92%も減少したという。調理を担当したシェフによると、アゾラは「歯ごたえがよくジューシー」で、「土や金属、鉱物、キノコやコケ、草の葉」を感じさせる味だという。

 アゾラを世界に通用する食べ物にするには、これらの調理法が決め手になるだろうとウィンステッドは確信している。「この3つの調理法は、アジアに自生するほかのアゾラ種にも使えるかもしれません」と言う。彼は今回の発見を最新論文にまとめている。「そうなれば、ポリフェノール含有量を食用に支障のないレベルまで減らすことも可能になるでしょう」

 ほかの野菜類に比べ、カロライナアゾラは亜鉛、マンガン、鉄、カルシウム、カリウムを豊富に含み、大麦のような穀類には劣るもののタンパク質の含有量も比較的多い。しかも、これは“野生の”アゾラの栄養価なのだ。「小麦、米、大麦、大豆といった穀物はいずれも、その栄養豊富な特性によって選ばれ、その土地に合わせて品種改良され、栽培されてきました」とウィンステッドは言う。「アゾラにも同じように手を加え、バイオディーゼル油の前駆体を大量に生成できる新たな品種をつくり出せたら、と想像してみてください。大量のタンパク質を生成する品種もつくれるかもしれません」

 繰り返すが、ウィンステッドは誰彼かまわず近所の池にアゾラを採りに行くよう勧めているわけではない。とはいえ、さらに研究が進めば、アゾラが作物として広く栽培されるようになる見込みはある。科学者たちの手によってさらに栄養価の高い品種に改良されれば、その可能性はいっそう高まるだろう。また、別の方法で摂取した場合にも人体に害のないことを確認するため、さらに詳しく調べる必要もありそうだ。「植物に共生するシアノバクテリアによって毒性が生じる危険性について研究が進めば、アゾラを未来の食材として活用する話はかなり現実味を帯びてくるはずです」とウィンステッドは言う。「トウモロコシはいまや食用に限らずバイオ燃料や家畜の飼料にも使われています。アゾラにも同様の可能性が潜んでいると思うのです」

     災害時の備えとしての期待

アゾラのすさまじい繁殖力が特に威力を発揮するのは、既存の食糧インフラが完全に崩壊するほどの災害が発生した場合かもしれない。栽培は屋外の人工池でも、屋内農園でも可能なはずだ。「深さ2インチ(約5cm)の水があれば育てられます」とウィンステッドは言う。「高さ2インチのトレイをたくさん重ねてグローライトで照らしてやれば、極小のスペースから大量の収穫が期待できるのです」

 マメ科の植物と同様に、アゾラは大気中の窒素を取り込んで成長するという希少な能力をもっているので、水に合成肥料を混ぜる必要がない。「窒素固定」と呼ばれるその過程を実際に行なうのは、潜在的な毒性を有し、アゾラに共生するシアノバクテリアだ。この細菌は「藍藻(ランソウ)」の名でも知られる。「アゾラは驚くほど大量の窒素固定を行ないます」と、カリフォルニア大学デービス校の土壌科学者、農学者のジャグディシュ・ラダは言う。ラダはペンシルベニア州立大学の調査には関与していない。「あとはリンと水と日光さえ与えてやれば、アゾラは猛烈に増えていきます」

 ラダによると、1980年代のアジアでアゾラの研究熱が一気に高まったことがあるという。当時、肥料不足に悩むコメ農家は作物に窒素を与える別の方法を探していた。どんな水田でも旺盛な繁殖力を発揮するアゾラは、稲作との相性が抜群だ。アゾラは大量の窒素を無条件に供給するだけでなく、ほかの水草の成長を抑え、二酸化炭素(CO2)よりはるかに深刻な温室効果をもたらすメタンの排出も削減してくれる。

 ところが、その窒素を実際に利用するには、機械を使ってアゾラを土に混ぜ込む必要がある。「つまりは膨大な労力を要する技術だったということです」とラダは言う。また、窒素はアゾラが自力で生み出してくれるとしても、作物をうまく育てるにはリンの施用が欠かせない。このことがコスト増を招き、結果的に80年代の終わりとともに研究対象としてのアゾラへの興味は薄れてしまった。しかし、ウィンステッドの最新論文をきっかけに、アゾラに対する関心が再燃するのではないかとラダは見ている。例えば、持続可能な方法でアゾラを育て、コメのほかにもさまざまな作物の肥料として活用する方法が発見されるかもしれない。

    バイオ燃料としての可能性も

 光合成しながら育っていく過程で、アゾラは大気からCO2を取り込んで酸素を吐き出す。実際、アゾラの炭素回収力があまりに優れていることから、その名は地球規模で起きたある現象に冠されている。4,900万年ほど前に起きた「アゾラ現象」だ。一説によると、そのころ北極圏でアゾラが大量に開花したことにより、大気中のCO2濃度が一気に下がり、地バイオ燃料用に需要急増球全体が急激な寒冷化に見舞われたという。

    バイオ燃料用に需要急増

トウモロコシの新規耕作が温室効果ガスの排出を増やしている:研究結果

バイオ燃料用に需要急増、トウモロコシの新規耕作が温室効果ガスの排出を増やしている:研究結果

                 By Matt Reynolds

 つまり、もちろん4,900万年前の規模には及ばないだろうが、アゾラを大量に栽培すればそれだけ多くのCO2が回収されることになる。アゾラを田畑の肥料として使えば、CO2を土の中に閉じ込めておけるはずだ。また、アゾラをバイオ燃料に変える方法が考案されれば、正味のCO2排出量を削減できるだろう。科学者たちはそのことをトウモロコシで実証済みだ。燃やすと空気中に余分なCO2が排出される化石燃料とは違い、アゾラ由来の燃料を燃やした場合は、この水草が成長の過程で大気から取り込んだ炭素が放出されるだけで済むのだ。

 「日光を利用して栽培できれば、燃料としての持続可能性が格段に上がることは間違いありません」とウィンステッドは言う。「人工的な照明などの器具を使うとなると、そのための電力をどこから得るかという懸念が生じます」。栽培施設の電力を化石燃料でまかなうことには誰もが抵抗を覚えるだろう。“気候に優しい”はずの燃料をつくるために、CO2を排出することになるからだ。

 経済発展の途上にある国々では、アゾラのこうした強みのすべてが何よりも優れた解決策となるはずだ。最新技術を駆使してアフリカ農家の気候変動対策を支援する

 「PlantVillage」プロジェクトの創設者であるデイヴィッド・ヒューズによると、アフリカでは数千年前から現在に至るまで、ウシやニワトリの餌としてアゾラが利用されているという。「寝そべって好きなだけ食べられれば、ウシはご機嫌でいてくれます」とヒューズは言う。「その土地に合わせて品種改良したアゾラを栽培し、家畜の餌として活用できれば、農場の管理体制をさらに改善できるでしょう。アゾラはまさに100点満点の素晴らしい作物です」

 アゾラを育てることで水の安定供給も確保できる。水面を埋め尽くす草が蒸発を防ぐからだ。「農園全体を囲むように水槽を置き、そこでアゾラを育てるのです」とヒューズは言う。「そうすることで炭素を回収しながら家畜に餌を与えられるうえ、水が必要になったら水槽の栓を開けて農地に水を引くことができます」

 長いことカモたちにむさぼり食われるだけだったアゾラは、人間にとっても重要な作物に昇格しつつあるのかもしれない。「まさに驚くべき植物です」とカリフォルニア大学のラダは言う。「1990年代以降に研究が中断されていたからといって、調査の再開をためらう理由にはなりません」

(Originally published on wired.com. Translated by Mitsuko Saeki, edited by Mamiko Nakano)

0 件のコメント:

コメントを投稿